「・・・清正ぁ、・・・俺はよぅ、清正の隣に居てぇンだよ」
 意味が分からないのか、それを聞いた清正は不思議そうな表情で正則を見る。
「清正の後ろに居たンじゃ駄目なんだよ、俺ぁ、清正の隣がいいんだ」
 隣で、対等に。後ろから支えるのではなくそれを選んだからこそ、今まで正則は置いていかれまいと懸命に清正や三成を追いかけて来たのだ。だからこれからだってそうするつもりだった。片目になったからと言ってそれを諦めるつもりなぞ、無いのだ。
 だから己の事を心配し、気遣ってくれたであろう清正の申し出はその気持ちがどれだけ嬉しくても受けるつもりは無かった。それは正則の望む生き方では無いからだ。生き方を変えて残りの人生を過ごすぐらいなら、このままを貫いてそれが元で死んだ方がましだとそう思うのだ。後悔なんてそんなものは己にはいらないと、そう思う。そう思って今まで来たのだ。
 正則の言葉を聞いた清正が、合わせていた視線を伏せた。小さく、ようやく耳に届く大きさで、吐き出された呟きが正則の耳を打つ。
「それでも、俺はお前に死んで欲しく、ないんだ」
 目を伏せたままの清正の周りで、またあの鈍色の影が濃くにじみ出る。靄のように揺らめいてそれは清正の姿を隠そうとする。
 ああそうかと、正則は理解した。
 これは、清正の不安だったのだ。
 目を失うことになるのではないかと言う不安。片目のまま出た戦場で、己が死んでしまうのではないかという不安。
 そりゃぁ俺の姿を見ただけで影が濃くなる筈だなぁと、そう正則はそっと笑う。こんな悲壮な表情の清正を前に不謹慎だとは思ったが、それでも浮かぶ笑みはどうしようも無かった。俺のことが心配だったのか。ただただ単純に嬉しくなる。清正が自分に向けてくれる感情はなんだって嬉しいのだ。どんなにくだらないものだって。
 正則は橙の日差しに染まった清正の髪に手を延ばした。手が触れる瞬間に清正が伏せていた目を上げ、不審な顔をする。構わずにそのままぐしゃぐしゃと撫でると、ゆらりと清正を覆っていた影が揺らめいて薄くなった。
 あぁやっぱりなぁと正則は笑う。清正は己の事を単純だ単純だと口にするけれど、そう言う清正だって余程に単純だ。こうやって触っていれば不安じゃなくなるなんて。
 髪を混ぜていた手を引いてぎゅうと清正の頭を抱き込む。瞬間ばたばたともがいた手足は、強引に抱き込んでいればそのうち諦めたのか溜息と共に力を抜いた。
「急になんなんだよ、この馬鹿」
 頭を抱き込まれたまま清正が毒付く。しかし、本気で怒っている声ではなく、どこか口調は柔らかい。やはり嬉しくて正則は笑ってしまう。
「いや、嬉しくてよぅ。やっぱ清正の事好きだなーと思って」
 なんだそれと清正がもう一度息を吐く。気持ちのままに、ぎゅうぎゅう力を入れて抱きしめているともう離せと、清正が身体を起こした。見ると夕日の所為だけではなく、顔が赤い。
 やっぱり清正は最高に可愛いと正則は思う。普段は格好いいのにこんな時にばかり可愛いなんて殆ど反則みたいなもんだよなぁと正則はこっそり胸の中で思う。




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松柏堂のわらこ様から頂いてしまいました。
リクを聞いて頂けるとのことだったので、私の書いた話でお好きなシーンを!とリクしたところ
こんな素敵なものが!!!!!

オフで出した「銀色」の中のワンシーンです。
蛇足かなぁと思いながら本文抜粋させて頂きました。


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